未来の記憶に導かれたもう1人の経営者は、海老名忠さん。
レーザー製品の輸入販売会社社長を務める海老名さんに、ある日、耳を疑うような話が飛び込んできます。レーザー機器製造元のA社がB社に身売りすることになり、今後は、B社の日本支社が国内の販売業務を行うというのです。当時、海老名さんの会社は、A社の日本総代理店であり、売上げの9割をA社の機器が占めていて、それがなくなれば、もはや倒産は避けられません。長年の信頼関係を裏切られたと感じたと海老名さんは、A社の社長に「罵倒の手紙」を認め、投函しようとします。
しかし、そのギリギリのところで、海老名さんは立ち止まります。自らの心を見つめ、さらにその心がつくられてきた人生の背景に想いを馳せていったとき、海老名さんの内側で決定的な転換が起こるのです。
その新たな想いで、A社の身売りと会社の今後について社員に率直に伝えると、かつては無責任にしか思えなかった社員たちが、「社長、こんないい会社はない。給料を抑えてでも会社を続けましょう」と言ってくれました。海老名さんは心の中で泣きます。
そして、改めて振り返ると、これまでA社の社長には随分お世話になってきたこと、会社を始めるときも、苦しいときも、助けてくれたことが心に蘇ってきました。
海老名さんは、「罵倒の手紙」を、これまでの関わりに対する感謝の気持ちを伝える手紙に書き換え、その手紙を投函しました。
「これですべて終わった──」。そう思った海老名さんの耳に、A社を買収したB社から、信じられないような連絡が入るのです。
「日本での販売は、これまでどおり貴社にお願いしたい」。
海老名さんは、何が起こったのか、すぐに理解できなかったと言います。後でわかったことは、引き継ぎの場で、A社の社長が、「日本での販売は、これからも海老名さんの会社任せてあげてほしい」とB社の社長に進言したということでした。
著者は語ります。
──なぜ、あのとき、「罵倒の手紙」を止め、「感謝の手紙」を認めることができたのか。この選択の背景にも、未来の記憶の痕跡を認めずにはいられません。……まさにそれは、未来の記憶の力による選択であり、未来の記憶が引き出したゴールデンパスとしか言いようがないものなのです。──
前回紹介した北川さんも、今回の海老名さんも、ご自身では「未来の記憶」を使ったという自覚はありません。自分では意識していなくても、もっと深いところで、未来の記憶に動かされ、導かれていた──。未来の記憶の計り知れない深さと力を感じずにはいられません。
では、未来の記憶を手に入れて、ゴールデンパスを開くには、どう
その方法が、新刊『ゴールデンパス』に書かれています。
(編集部N)
『ゴールデンパス──絶体絶命の中に開かれる奇跡の道』(高橋佳子・著)
四六判並製 定価 1,980円(税込)