今回は、『新・祈りのみち』の「自律のことば」の「慈愛に生きる」について考えてみたいと思います。
慈愛に生きる
想いにおいて 言葉において 行いにおいて
時の流れの早瀬にあろうと
喜びのときも 哀しみのときも
いかなる時と場にあろうとも
あまねく存在のうえに 限りなき慈愛を注ぐ自ら選びたる時の総ては
力を尽くし 心を励まし
この慈しみを抱いてありたい神の理によりて
とらわれの自己より離れ
本然なる愛の基に生きる自己に還らん
大地の如く
大地に営む
『生命の余白に』(高橋佳子著)の「慈愛に生きる」では、誰もが人生の目的を忘却した状態から生き始めるがゆえに、悲しみや苦しみ、とらわれにあえぎ、ねじれた人生を生きざるを得ないしくみについて語られた後、以下のような言葉があります。
自分とは一体何者であろうか。人生とは一体いかなるものであろうか。そう問い続け、眼を見開いて私たちは自らとその人生に向かい合います。忘却ではじまり、無自覚のうちに築かれた人生の哀しさに気づくのです。
口惜しさのこみ上げる時間(とき)の続くことでしょう。眼差しを避けずにはいられぬ哀れな在り様がそこにあるかも知れません。今まで追い求めてきた時間の空虚さに茫然と立ちつくすかも知れません。
私たちは自らの人生の実相を垣間見て一瞬一瞬選び取られてきたその生命(いのち)の貴さを想います。かけがえのない生命。人間が生命を造り出すことはできないのです。その生命の重みを感ずるでしょう。その人生を真にいとおしむことでしょう。掛け替えのないその時間を惜しみ愛するでしょう。
(『生命の余白に』より)
これは、自らの内界深くに沈潜し、人生の実相を徹底して見つめることを誘う言葉です。
魂のまなざしから、過去の人生を眺めたときにこみ上げてくる哀しさ。それでも生かされている生命の貴さ──。
そしてそこにふと眼を移すとき、その悲苦を見つめた眼差しをもって世界を再び迎えるとき、自らと共に多くの人々が生きていることを知るのです。既に人々は、世界は、自らと共に在り続けるものです。
何と多くの人々が自分と共に生き合っていることでしょう。生き合うとは生存のみならず生命(いのち)を分かち合うことです。そして尚、彼らもまた自分を等しく人生を無自覚に生かされてきたのです。
(同書)
自らの人生を深く見つめたまなざしで、改めて世界を眺めるとき、以前とはまったく違った光の中で人々の姿が見えてくる。自らと同じ悲しみと苦しみ、そして同じ貴さと重さをもった無数の人々──。
そのとき、今まで気づかなかった、人間と世界の真相の一端に触れることができるのではないでしょうか。
そして、このような内的プロセスをたどって初めて、愛が自ずと生まれてくる。
著者はこのように語ります。
共に生きること、共に在ることは互いを受け入れること。互いの生命(いのち)を認めて受け入れること。生命を尊ぶゆえに不害の想いを抱くのです。そしてそこに、やがて互いを育む愛が生まれます。何かを得るためのものではありません。共に在ることの発見から生まれる自然の愛です。無償の愛です。愛とは遍く存在に本来的なものなのです。……
その愛はどれ程分け与えようとも尽きることのないものです。愛とは蓄えるものではないからです。それは日々新たに生まれるものだからです。
愛を注ぐということは生命(いのち)の縁(えにし)を結ぶということでもあります。生命を分かつということです。私たちには本来何一つかかわりのない存在、かかわりのない出来事はありません。
しかし、私たちは長い間、限定的に世界を見てきました。人々に接してきました。好き嫌いや感情的な印象で多くの存在と出来事を自らと無自覚のうちに断ち切ってきました。多くの人々や多くの事柄を無縁のものにしてきたのです。その人々や事柄と生命の縁を結び合うことを想います。それは捨て去られたものの内にさえ結ばれるはずのものです。選び取られぬもののうちにこそ結ばれるはずのものです。それは言葉のはらまれる、行為の培われる、存在の奥底に結ばれるものです。
慈愛に生きる。
これからの人生、訪れる出会いのすべてに愛を注ぎ、命の縁を想いに託して結んでゆくことこそ慈愛に生きるということでしょう。それは自らをあらゆる存在と共に歩む者とすることでしょう。遍く生けるものの上に尽きることのない愛を注ぐのです。より多くと真のかかわりを結び合うことです。
真実は愛ある眼差しの下にのみ姿を現わすものです。自らを見つめ同時に他を包む眼差しを養うことです。絶えず心のうちに共にある人々、共にある世界を包容して忘れぬことを想います。……
(同書)
いかがでしょうか。
思わず引用が長くなってしまいましたが、まさに「真実の愛とは何か」を惜しげもなく明かしている珠玉の言葉の数々ですね。
「慈愛に生きる」ことが、どれほど深く、広く、果てしない歩みであるのか、そしてそれは、大いなる存在・神が人間に授けてくれた本性であることを思わずにはいられません。
(編集部N)
『ゴールデンパス──絶体絶命の中に開かれる奇跡の道』(高橋佳子・著)
四六判並製 定価 1,980円(税込)