ジャーナリストでノンフィクション作家の立花隆さんが亡くなりました。
立花さんは、政治、経済、環境、医療、宇宙、生命、哲学、臨死体験など、あらゆる分野において膨大な著作を出し続け、社会に大きな影響を与えました。他の追随を許さない圧倒的な知的好奇心から生まれた業績から、「知の巨人」とも呼ばれています。
立花さんが社会的に注目されるようになったのは、1974年、『文藝春秋』に「田中角栄研究〜その金脈と人脈」を発表したことがきっかけでした。その記事は、時の首相・田中角栄退陣のきっかけをつくったと言われています。
不正や虚偽を許さず、真実を追究する姿勢は、政治問題、社会問題のみならず、科学や医療、さらに人間の「死」の問題にも向かってゆきます。
「1人の専門家にインタビューするときは、最低、その人の書いたものを全部読んでから行け」と後輩に語っていたという立花さんは、自らが利根川進さん(ノーベル生理学・医学賞受賞者)を取材した際も、利根川さんの英語の論文名を正確に挙げ、そこに書かれている実験について的確な質問を重ねて利根川さんを感嘆させたと言います。
私もかつて、世界的免疫学者の多田富雄さんから、「立花さんと対談をしたのですが、あまりに専門的な質問をしてくるので驚きしました」という話を聞いたことあります。
立花さんは、臨死体験や死といったテーマについても、徹底した調査と取材を行い、数々の本を著しています。
その結論は、誤解を恐れずに一言で言えば、「結局、死後の世界のことはわからない。論理的に考えて正しい答えが出る問題ではない」。科学的なスタンスから実証的に物事を追究する立花さんにとって、それは全力を尽くした誠実な結論であったに違いありません。
個人としても、立花さんは、「自分は、どちらかと言えば、死んだら終わりで何も残らないという立場に近い」と語っています。
しかし、それとは少し違う印象の立花さんの姿を目にしたことがあります。
それは、25年ほど前、作曲家・武満徹さんの追悼番組でした。その中で、立花さんは、武満さんが死の前夜、生涯愛してやまなかったバッハのマタイ受難曲を、偶然のようにラジオで聴くことができたというエピソードを紹介していたのですが、話の途中で、突然、感極まって泣き出し、言葉に詰まってしまったのです。
どこまでも冷静に、知的に追究してゆく立花さんの別の側面──唯物的な世界観を超えた何かに感応する一面を垣間見たようで、印象に残っています。
また、死の前年に発刊された『知の旅は終わらない』の中で、立花さんは、「人生最後の本は、形而上学についての本にするつもりだ」と語っています。それは実現しませんでしたが、唯物論とは真逆の目に見えない本質を追究する形而上学について、立花さんがどのような論を展開したのか、興味深いものがあります。
さらに、もし、立花さんが、「魂の学」の人間観・世界観──人間は魂の存在であり、魂と心と現実は因果の法則で結ばれている――を前提に、様々な問題やテーマを探究されていたなら、いったいどのような世界を私たちの前に提示していただろうか……と想像してみたくなります。
立花さんの並外れた知的探究心の根底には、おそらく人間と世界の真実に対する憧れと愛があったのではないでしょうか。私たちも、その熱意を引き継ぎながら、次なる時代の人間観・世界観に基づいて未来を開いてゆきたいと思います。
(編集部N)
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