交流モーターの発明などでその名を歴史に残している発明家、ニコラ・テスラ。
『ゴールデンパス』では、青写真(ブループリント)を描く事例の1つとして紹介されています(P143~)。
テスラは当初、有名な発明王エジソンに憧れて渡米し、エジソンのスタッフの1人として働いていましたが、やがてエジソンの許を去り、独自の道を歩むことになります。
発電に関して、直流システムを推進するエジソンと、交流システムを追求するテスラ――。その考えは真っ向から対立していたばかりでなく、エジソンが多くのスタッフを集めて集団で組織的に研究を進めるのに対して、テスラは孤独を愛し、あくまで個人のアイデアと発想を最優先する――といったように、2人はまったく異なるタイプだったようです。
テスラの発明は、交流モーターのみならず、様々な領域に及んでいます。
たとえば、彼はこんな言葉を遺しています。
「無線が完全に実用化されると、地球全体が巨大な脳に様変わりする。すべてが生き生きと律動する組織粒子になってしまう。いかに離れていても、互いに瞬時に交信可能になるばかりか、テレビや電話を通じて、数千マイルの距離を超え、まるで対面しているかのごとくしっかり見聞きできるようになるだろう。それを可能にする機器は現在の電話に比べて驚くほどシンプルで、ベストのポケットに入れて持ち運べるものになる」(『天才ニコラ・テスラのことば』)
いかがでしょうか。この「ポケットに入れて持ち運べる機器」は、まさに現在の携帯電話であり、スマートフォンですね。この言葉は1926年に語られたものです。
また、
「もうひとつの重要な発明は音声で操作されるタイプライターである。この進歩はオペレーターを不要にし、オフィスの時間と労力を大幅に節約することで、長年の要求を満たすだろう」(同書)
現在、AIによる音声認識技術の向上によって、Googleアシスタント、AppleのSiriなどのスマートスピーカーが使われるようになり、様々な企業では議事録作成やテープ起こし、記入作業の自動化などを進めています。テスラがこの「青写真」を見たのは、1915年のことでした。
こんな言葉もあります。
「私が目指しているのは、現在はいかに不可能に見えても、『自分の知性』を持つオートマトン(自動人形・ロボット)をつくりだすことである。これが実現すれば、オートマトンがオペレーターから完全に独立し、感覚器官を刺激する外部の作用に反応して、あたかも知性を有するがごとく多種多様な行動ができるようになるはずだ」(同書)
いかがでしょうか。これは、現在も開発が進められている人工知能(AI)ロボットですね。テスラがこの言葉が語ったのは1900年。まだ「ロボット」という言葉もなかった時代ですから驚きです。
21世紀の宗教についての言葉もあります。
「今日、仏教とキリスト教は信者数においても、重要性においても、最も偉大な宗教である。私は両者の本質が21世紀の人類宗教になると確信している」(同書)
これが語られたのは、第2次世界大戦以前の1935年。仏教とキリスト教の本質を兼ね備えた新たな宗教が21世紀に誕生する、ということでしょうか。今、この言葉に触れると、その意味の重さをリアルに感じずにはいられません。
そして、21世紀の現在よりも、さらに未来を垣間見たような言葉もあります。
「この小さな惑星だけが生命の宿る場所に選ばれ、他のすべての天体が火や氷の塊であるという信念ほど愚かなものはない。生命が存在しない惑星は確かにあるが、そうでない惑星もある。なかにはさまざまな進化の段階と状態のもとで、生命が存在する惑星もあるに違いない」(同書)
「惑星間通信より重要なものはない。それはいつの日か必ず実現する。宇宙には自分たちのほかにも人類が存在し、働き、傷つき、苦闘しているという確信が魔法のような効果を生み、人類が存続する限り続く宇宙的友好の基礎を築き上げるだろう」(同書)
ここまで来ると言葉がありませんが、多くの青写真にアクセスしていたテスラの言葉であるだけに、遙かな未来への想像力が広がりますね。
(編集部N)
『ゴールデンパス──絶体絶命の中に開かれる奇跡の道』(高橋佳子・著)
四六判並製 定価 1,980円(税込)