『ゴールデンパス』で、青写真(ブループリント)のイメージを伝える事例の1つとして紹介されているジャズピアニストのキース・ジャレット。
以前、彼のソロコンサートを聴きに行ったことがあります。
即興演奏が行われるということで、事前に曲目は発表されず、どんな曲が演奏されるのかはわかりません。
当日、会場は数千人の観客で満席。おもむろにステージに現れ、ピアノの前に座るキース。物音1つしない、息が詰まるような緊迫した空気の中から、やがて心の奥に沁みるような、美しく、神秘的なメロディが生まれてゆきます。
何もないところから、即興で作曲して演奏するということが、どれほど困難なことか──私たちには想像することもできませんが、その秘密を解くキーワードが「青写真」(ブループリント)です。
『ゴールデンパス』には、キースのこのような言葉が紹介されています。
「私は自分が才能あふれるクリエイター、創造できる音楽家とは決して思っていない。でも私は、創造の神様はいると信じている。もし私が見事な演奏ができたとしたら、それは私の力ではない。きっとそれは私を媒介として、創造の神様が表現したものだ」(P140)
そして、そのために、キース・ジャレットのコンサートでは、聴衆にもものすごい集中力が要求されます。たとえば、演奏中(あるいは演奏の前や合間でも)、少しでも咳が聞こえようものなら、キースは集中力を削がれ、苛立ち、ときに演奏を中断してしまいます。
私が行ったコンサートでも、彼の指がピアノの鍵盤に触れようとした瞬間、会場で物が落ちる音がすると、キースは顔をしかめ、演奏を中止し、しばらくの間呼吸を整える、ということが何度かありました。宇宙と共振し、次元を超えた青写真をキャッチするためには、それほどの集中力が必要とされるのでしょう。
また、こんな興味深いエピソードもあります。
ブラジルでコンサートをした後、キースは、現地のプロデューサーから「どうしてあなたはブラジルで知る人ぞ知る〇〇という音楽様式を知っているのか」と尋ねられたそうです。「そんな音楽は知らない」と答えると、そのプロデューサーは、「でもあなたは、さっきあれほど見事に演奏されたではありませんか?」。実際、そのブラジルの音楽様式を知らなかったキースは、「自分が創った音楽でも、その創造過程がわからないことがたびたびあって驚かされる。これは、世界中の民族音楽の底流がつながっていることを実証していると思う」と語っています。民族や文化の違いを超え、より深層の意識の次元まで掘り進んだとき、直感されるものがあるに違いありません。
『ゴールデンパス』には、このように書かれています。
「インスピレーション、ヴィジョン、ひらめき、天啓──。それらは、私たちが青写真、イデアと出会ったときの衝撃であり、天との交感の体験にほかなりません。その1つ1つがどのようなものかは、いかに言葉を尽くしても説明しきれるものではありません。論理や理屈を超えた全体的な直観とも言うべき体験であり、ときに、宗教者の神秘体験、悟りの体験と重なるものでもあります」(P151~152)
「そんな大変なことが自分にできるのだろうか……」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、幸いなことに、著者はこう語りかけます。
「それでも私たちは、何とか、その青写真にアクセスしたいと願うのです。では、それはどのようにして成し遂げられるのか、そのための3つの心構えをお話ししたいと思います」
誰もが青写真にアクセスできる! その心構えが『ゴールデンパス』P153以降に書かれています。
(編集部N)
『ゴールデンパス──絶体絶命の中に開かれる奇跡の道』(高橋佳子・著)
四六判並製 定価 1,980円(税込)