山田洋司さん(医療法人防治会 梅ノ辻クリニック 院長)
『2つの扉』を一読し、これまで学んできた「魂の学」の神髄がわかりやすくまとめられていることに驚きました。その中で、とりわけ深く心に響いたのが、次の言葉です。
「……実は自分の本当の気持ちに気づいていないことがある。建前に対する本音のことではない。……本音と建前の綱引きのもっと奥に自分でも気づかない本当の気持ちが隠れていることがある。本心という魂の声である。本心に触れたとき、本心を知ったとき、人は新たな人生の扉を開く」(62ページ)。
この言葉に触れたとき、思い出すのもつらいかつての出来事が、実は私自身が「本心」に近づくきっかけとなり、現在の頭痛外来を立ち上げるターニングポイントとなったことを痛感しました。
当時、脳神経外科医として多くの手術を手がけていた私は、「どのように技術を磨いて手術をすれば患者さんがもっとよくなるのか」ということに力を注いでいました。その一方で、手術が終わると、患者さんのその後の歩みよりも、気持ちは次の手術に向かっていたように思います。
しかしある日のこと、術後、落ち着いてよかったと思っていた患者さんの病状が急に悪くなったのです。痛恨の想いでした。
そんなときに、高橋佳子先生にお会いし、初めて「痛みは呼びかけ」という言葉に出会いました。患者さんの急変は、私にとって、まさに「痛み」そのもの――。同時に、医師としてのあり方を根本的に見直す「呼びかけ」だったのです。
もし、あの出来事がなければ、もっぱら脳の手術に関心を抱いていた私が、その後、手術になることは少ない頭痛治療に集中して取り組むことはなかったように思います。しかし、「魂の学」を学ぶ中で、頭痛に苦しむ多くの患者さんの姿が、これまでにも増して切実に迫ってきました。「患者さんの苦しみを少しでも楽にしてさしあげたい。そのために『魂の学』から見た新たな頭痛治療を模索してみよう」という想いへと導かれたのです。
今思えば、自分でも気づかなかった本当の気持ち=「本心」の一端に触れ、新しい人生の扉を開くことにつながった体験だったのではないかと感じます。
本書は、痛みや苦しみの渦中にあって、人生の新しいページを開きたいと願う方にとっての必携の書であり、医療者のみならず、すべての方に読んでいただきたい1冊です。