今日6月6日は、『ゴールデンパス』に「雨乞い師」の話で登場するC.G.ユング(1875~1961)の命日です。
「シンクロニシティ」(共時性:意味のある偶然の一致)、「集合的無意識」(すべての人類に普遍的に存在している無意識)など、新たな概念を次々に発表し、独自の心理学を切り開いたユングは、心理学者を超えた思想家として、多くの文化人に多大な影響を与えました。
たとえば、作家のヘルマン・ヘッセ、『ゲド戦記』を書いたル=グヴィン、映画監督のフェデリコ・フェリーニ、ミュージシャンのスティング、また映画『スターウォーズ』もユング心理学の影響なしには生まれなかったと言われています。
『ゴールデンパス』第4章で、患者さんの治療中に「うまいことが起こる」という話をされている河合隼雄さんも、ユング心理学を深く学んだ方です。
ユング心理学では、「個性化」ということが大切にされ、堅固な理論よりも、1人ひとりがそれぞれの「ユング心理学」を求めてゆくようなところがあります。
そもそもユング心理学のユニークな概念の多くが、ユング自身の自己探求の中から生まれてきたものなのでしょう。
そのユングは、人生について、そして、自らの中に生き続ける永遠なるものについて、このように語っています。
「人生は、その根茎の上に生きている植物のように私には思われる。その真の生活は見えず、根茎に隠されている。大地の上に現われる部分は、ただ夏しかもちこたえない。それからそれは枯れる──束の間の幻影なのである。われわれが生命と文明の限りない成長と衰退を考えるとき、絶対の無という印象から逃れることができない。それでも私は、永遠の流転の下で、生きて持続している何ものかの感覚を決して失ったことはなかった。われわれの見るものは花であり、それは過ぎ去ってゆく。根茎は残っているのである」
この言葉を読むと、崩壊の定に支配されるこの世にあって、それを超えた魂の実在を、ユングが自らの内に直観していたことがうかがえます。
科学と物質文明が急速に発展した20世紀、人間の意識の深層、魂の世界を探究したユングは、ある意味、特異な存在であったのかもしれません。
没後60年の今日、その足跡に想いを馳せながら、21世紀の現在、新たな実践哲学──精神世界(魂・心)と現実世界(肉体・物質)を1つにつなぐ「魂の学」を生きる私たちの歩みをいっそう確かにしてゆきたいと思いました。
(編集部N)
『ゴールデンパス──絶体絶命の中に開かれる奇跡の道』(高橋佳子・著)
四六判並製 定価 1,980円(税込)