「われわれは、月に行くことを決めました。今後10年以内に月に行き、さらなる取り組みを行うことを決めたのは、それが容易だからではありません。それが困難だからです。この目標が、われわれの持つ最高の行動力や技術を集結し、それがどれほどかを計るのに役立つからです。その挑戦こそ、われわれが受けて立つことを望み、先延ばしすることを望まないものだからなのです。……」
これは、米国第35代大統領ジョン・F・ケネディの言葉です(1962年9月、ライス大学でのスピーチ)。※当時の映像の一部をご覧になりたい方は→コチラ(抜粋編集されています)
『ゴールデンパス』では、「青写真は過去から生まれてくるものではなく、未来からやってくるもの」を示す事例として紹介されています(P147)。
人間が地球以外の天体を訪れる──。人類史上、誰も成し遂げたことのない目標(青写真)を訴えたケネディの演説は、多くの人々から熱狂的に迎えられました。
当初、あまりの高い目標に、NASA(米国航空宇宙局)にはその実現を疑問視する人もいたそうですが、技術者たちは、ケネディの掲げた遙かなヴィジョンに向かって、これまでのない熱意と使命感を抱いて、議論と試行錯誤、研究と実験を重ねてゆきます。
そして、ケネディの公約した10年以内の1969年7月20日、ついにアポロ11号の宇宙飛行士が、歴史上初めて地球以外の天体の上に降り立ったのです。
月面に踏み出した船長のニール・アームストロングは、こう語りました。
「これは1人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」
当時、その様子は世界中に生放送で伝えられ、多くの人々がこの快挙に沸き返ったと言います。生放送の時間帯は、日本ではお昼頃でしたので、テレビで宇宙飛行士が月面を歩き回る姿をリアルタイムでご覧になった方もいらっしゃるかもしれません(NHKが放送、視聴率は68.3%に達したそうです。当時の生放送を見る人々の様子は→コチラ)。
ケネディは1963年11月22日、テキサス州ダラスで暗殺され、アポロ11号の月面着陸を見ることはかないませんでしたが、その後も人類を月に送るアポロ計画は1972年のアポロ17号まで続き、計12人の宇宙飛行士が月面を踏みしめました。
アポロ計画が生み出した技術革新は、その後の宇宙開発を大きく支えたばかりでなく、半導体や医療機器など、産業界や人々の生活にも多大な貢献を果たしたと言われています。
そして、アポロ11号の月面着陸から50年が過ぎた今、NASAは再び人間を月に送る「アルテミス計画」を進めています。これは、2024年に米国人宇宙飛行士を月面着陸させることをめざしていて、昨年12月、その宇宙飛行士18人が発表されました(その半数が女性)。「アルテミス計画」には日本も参加を表明していますので、近い将来、月を踏みしめる日本人が誕生するかもしれません。
「青写真は、私たちに飛躍を与えてくれます。なぜなら、青写真は過去から生まれてくるものではなく、未来からやってくるものだからです」(『ゴールデンパス』P147)
未来の青写真を信じたケネディ──。その青写真の力が、人類を過去から飛躍させ、未来への扉を開いたことを思わずにはいられません。
最後に、困難な時代に高い理想を掲げて歩んだケネディ大統領が、就任演説で語った有名な言葉をご紹介します。
My fellow Americans: ask not what your country can do for you―ask what you can do for your country.(米国の皆さん、国家があなたに何をしてくれるかを問うのではなく、あなたが国家のために何ができるかを問うてほしい)
My fellow citizens of the world: ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man.(同胞である世界の市民の皆さん、米国があなたのために何をするかを問うのではなく、人類の自由のために、私たちは共に何ができるのかを問うてほしい)
(編集部N)
『ゴールデンパス──絶体絶命の中に開かれる奇跡の道』(高橋佳子・著)
四六判並製 定価 1,980円(税込)