「近くして見難きは我が心──」
かの空海も語ったように、多くの先人たちが、自分の心を知ることの難しさを口々に伝えています。
『ゴールデンパス』では、経営学の専門家だった八木陽一郎さんが、目に見えない自らの心をつかむために取り組んだ「止観シート」が紹介されています(P247~249)。
「止観シート」は、「魂の学」の実践における基本的な取り組みの1つです。
「止観」とは、もともと仏教の言葉で、心を「止」めて、正しく「観」ずるという意味です。
心を止めて観ずることがいかに困難であるか──古来、多くの高僧が命がけでそのことと格闘し、修行を重ねてきました。
しかし、「止観シート」は、現代に生きる私たちが、日常生活の中で、その境地を獲得することができる画期的なシートです。
こんな話があります。
ある高名な寺院に、半世紀以上にわたって密教の厳しい修行と鍛錬を重ねてきた、とても位(くらい)の高い僧侶がいました。
あるとき、その高僧は、介護をしてくれている女性が自分自身の心を瞬時に捉え、心と現実の関係を的確につかむ力を持っていることを知って、飛び上がらんばかりに驚きます。
実は、この女性は、「止観シート」によって自らの心を捉えるトレーニングをしていたのです。そして、高僧は、「私は、いまだに自分の心をつかむことができていない。私も学ばせていただきたい」とおっしゃったとのことです。
高僧が羨むほどの高いレベルで心を捉えることを可能にする「止観シート」──。
CTやMRIが身体の内側の状況を明らかにするように、「止観シート」は、いわば見えない心を可視化するツールです。その特徴は、一瞬の心の動きを、「感覚」→「感情」→「思考」→「意志」という要素に分解し、それぞれを丁寧に、的確に見つめてゆくことにあります。
プロ野球のバッターが、投手の投げた剛速球のボールが手元で止まって見えたり、プロボクサーが、目にも止まらぬスピードのパンチを瞬時に見きわめたりするように、「止観シート」に取り組んでゆくと、それまでは気づくこともできなかった心の動きが、細かくクリアに見えてきます。
心がとてもスッキリし、いろいろなことに振り回されなくなり、自分の心を調御し、コントロールできるようになってゆきます。
もちろん、それは一朝一夕では叶いません。
外科医が腕を上げるために多くの手術を経験しなければならないように、自分の心をつかむためには、ある程度の数の「止観シート」をこなす必要があります。「止観シート」は、心の筋力トレーニングでもあるのですね。
同時に、それは、何とも言えない発見に満ちた時間であり、ワクワクするような体験です。かつての時代のように、人里離れた山にこもって修行する必要もありません。現代人として、普通の社会生活を送りながら取り組むことのできるトレーニングです。
皆さんも、ぜひ「止観シート」にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
(編集部N)
『ゴールデンパス──絶体絶命の中に開かれる奇跡の道』(高橋佳子・著)
四六判並製 定価 1,980円(税込)