『ゴールデンパス』第3章に登場する森谷太佳夫さんは、元スーパーマーケットの経営者です。その店は、富山県で祖父が創業したもので、当時は小さな店でしたが、父の代になってバブル景気を受けて拡大、県内4位のチェーンに成長します。
その3代目の跡継ぎとして生まれた森谷さんは、祖父から溺愛され、母親からは勉強と同時に多くの習い事が与えられ、「自分は特別」という優位の意識を強めてゆきました。実際、成績も優秀で、中学のときは空手で県のチャンピオンになるほどでした。
しかし、次第に空手で勝てなくなると、森谷さんの人生行路は思わぬ方向に進んでゆきます。中学2年の夏休み、友人たちと真夜中にビールを飲み、歩いているところを警官に見つかって、深夜徘徊で補導。それでも森谷さんの気持ちは、「今さえ楽しければそれでいい」。
高校時代のヘアスタイルは、「頭の中央に剃りが入り、まるで火口を取り囲むように金髪の毛が生えているボルケーノヘアとでも呼ぶべき奇抜なもの」。
そんな森谷さんが、偶然、東京駅で『ゴールデンパス』の著者・高橋先生とばったり出会うのです。著者は、当時の様子をこう語っています。
「母親に連れられていた森谷さんは、そのとき18歳。このときは髪の毛が爆発したようなアフロヘアで、まっすぐに立っているのではなく、横に大きく姿勢を傾けている奇妙な格好でした。ほとんど反応もなく、他の人が見れば、心配な若者という印象だったかもしれません」
私も、森谷さんから、当時の写真を見せてもらったことがあります(下をご覧ください)。
失礼ながら、まさに「得体の知れない生物」のような、何を考えているのか皆目わからないような印象でした。
しかし、そんな森谷さんに、著者はこう語りかけるのです。しかも初対面で……。
「あなたの人生の道はきっと変わると思う。世界や人生は抽象的なもので、ただそこにあるだけのもの、そう考えているかもしれない。でも、そうじゃない。あなたの歩みに具体的に応えてくれるものなのよ……。ぜひ、(GLAの)青年塾にいらっしゃい」
この話を聞いたとき、私は、何よりも著者の人間を見るまなざしの限りない深さに心打たれました。──自分だったら、絶対にそんな言葉をかけられない。しかし、著者は、その瞬間、目の前にいる森谷さんの姿形の奥に、彼の魂を感じ、その声を受けとめ、応えられた──。
すると、森谷さんの心の奥から、こんな想いが湧き上がってきます。
「人生の願いも目的もなく、親におんぶに抱っこで生きている。こんなだらしない格好で生きている自分が恥ずかしい」
どうして突然、そんな想いが湧いてきたのか、きっと森谷さん自身もよくわからなかったに違いありません。それは、著者の言葉の響きが森谷さんの魂に呼びかけ、その呼びかけに彼の魂が感応したからではないでしょうか。森谷さんの心の奥から湧き上がった想いは、その魂の声だったと思うのです。
そして、この出会いは、森谷さんの人生を大きく変えてゆきました。
詳しくは、ぜひ『ゴールデンパス』第3章をお読みいただければと思いますが、最後、スーパーの社長として、巨額の負債、倒産の危機に直面する中、社員の幸せと地域の発展のために、あえて社長の立場を放棄し、自己破産を受け入れる森谷さんの選択には、深い感動を覚えずにはいられません。
著者はこのように語っています。
「森谷さんが最終的に選択した青写真=目的地は、誰も不幸にすることのない道すじをもたらしたのです。まさにこれこそ、1つのゴールデンパスだったのではないでしょうか。……ゴールデンパスは、勝ちの中にしかない道ではなく、負けの中にもある道──。そしてそれは、『いかなる試練であろうと、目の前にあるカオスは、他の誰でもない自分自身にやってきたのだ』という必然の自覚によって開くことができた唯一の道だったということです」(P193)
森谷さんの歩みは、ゴールデンパスの1つのあり方を示しているとともに、青写真「アクセスのための心構え3──必然の自覚を持つ」の深淵さを教えてくれているのですね。
(編集部N)
『ゴールデンパス──絶体絶命の中に開かれる奇跡の道』(高橋佳子・著)
四六判並製 定価 1,980円(税込)