『ゴールデンパス』第3章で紹介されている浅野邦子さんは、金箔を使った製品の製造販売会社「箔一」の創業者。地方の中小企業の女性経営者として初めて経団連・審議員会副議長となったことでも知られています。
もともと京都出身の浅野さんは、金箔生産400年の伝統を誇る金沢の箔屋に嫁ぎました。箔屋は、何世紀もの間、伝統的な工芸品を支える裏方で、あくまで素材産業、下請け産業でした。つまり、最終的な製品の作り手ではないため、その苦労や貢献が世に知られることはありません。
浅野さんは、そこに疑問を感じ、立ち止まります。
その浅野さんの心に降りてきたのが、「箔屋の技術で新たな商品をつくり、自ら販売する」という青写真――。しかし、そのアイデアは、これまでの伝統や慣習と相容れないもので、職人さんからは「そんなことは、よそでやってほしい」と断られ、ご主人からも反対されてしまいます。
誰も賛成してくれず、孤立無援。でも、浅野さんは、自らの直感を否定することはできなかったのです(著者は、「困難な事情を抱えていても、自分自身がスッキリする──。それが青写真の特徴です」と書かれています)。
それから浅野さんは、自分で会社を興し、貯金をはたいて試作品をつくり、売り込みに奔走します。地元でも異端視されるなど、逆風の中で未踏の道を切り開くことが、どれほど大変なことだったのか、察するに余りあるものがあります。
そして、その結果は──。まさに、驚くべき達成と輝かしい成果となって結実したのです。
箔一は、従来の箔屋の概念を覆し、伝統工芸品にとどまらず、化粧品、食用金箔や菓子、現代建築など、多角的な事業を展開してゆくことになりました。
たとえば、2008年、成田空港旅客ターミナルで、金沢箔を使った壁面装飾を完成(南北ウイングを結ぶ第一旅客ターミナル3階のメイン通路。縦3.5 m、長さ30mの壁面2本)。
2012年、東京スカイツリーのインテリアで、箔一の箔仕上げが採用。
2015年、国立天文台野辺山宇宙電波観測所における電波望遠鏡の反射鏡に金箔を施工(劣化した45m電波望遠鏡内の反射鏡に厚めの金箔を貼ったことにより、反射効率を15%向上させることにも貢献)。
そして2017年、ワシントンで開催された日米首脳会談のお土産に箔一の工芸品が選ばれ、翌2018年秋の叙勲で、浅野さんは旭日単光章を受章されました。
こうした飛躍的な成果を生み出した浅野さんの力は、どこから生まれてくるのか──。
『ゴールデンパス』の著者はこう記しています。
「それは、浅野さんの『青写真を信じる』という姿勢の連なりの中から生み出されてきたものです。青写真をありありと描き、その成就を心の底から願い、祈り心で、できることをすべて尽くしたとき、奇跡のような道が開かれるのです」(P158)
まさに、浅野さんの生き方は、「アクセスのための心構え1──青写真を信じる」とはどういうことかをリアルに教えてくれているのですね。
(編集部N)
『ゴールデンパス──絶体絶命の中に開かれる奇跡の道』(高橋佳子・著)
四六判並製 定価 1,980円(税込)