幼少の頃より受けた厳しい差別や偏見の中で人間不信へと心が荒み、欲望の渦へと巻き込まれていく一人の守銭奴。 その彼が、生と死の谷間で己れ自身の姿を見つめ、人生の意義、愛にふれる場面は読む者に感動を与えずにはおかない。
内容の一節
ドームの中の清は、あまりにも暗い世界のために心の中が混乱するのだった。生への執着、死への恐怖。清は、どんな人間も信じられないような無情な男であったため、神の存在など信じるはずがなかった。しかし、自分の肉体舟に戻れないドームの限られた世界に置かれて、 初めてこれは大変だ、何かあるのではないだろうか―と、現実の死の世界の存在を否定できなくなったのである。(本文23頁)